私は「はなむけの言葉」が大嫌いです。
なぜならそれは、普通、目前に開けている世界に船出する若者たちを
「励ます」言葉で埋もれているから。
病、老、死をはじめ、人生の暗い側面にふたをして、希望をもって
積極的に生きる姿勢ばかりが強調されるからです。
ですからこうした言葉を口に出す立場にならないように、
細心の注意を払ってきたのですが、2年前、ついに学科長にされてしまい、
その任期の最後の最後に学内パンフレット『学園だより』に卒業生に対する
はなむけの言葉を書かざるをえなくなった。
逃げ切れず、さんざん迷ったすえに、この機会だ、ボツになってもいいから
「本当のこと」を書こうと決意! えいや!っと書いてしまった。
『ご卒業おめでとうございます、どうせ死んでしまうのですが。
みなさんはこの人生の新しい展開に、やや不安を抱きつつも、大きな希望に
胸膨らませていることでしょう、どうせ死んでしまうのですが。(中略)
みずからの個性を見失うことなく、困難を糧として、大きく成長する機会に
してほしいのです、どうせ死んでしまうのですが。何年かの後に、逞しく成長した
皆さんの笑顔に会えれば、これほど喜ばしいことはありません。
今後の健闘を切に祈ります、どうせ死んでしまうのですが。』
誤解のないように言っておきますが、私は巣立っていく若い人々を見て、
人並みにいいなあと思いますし、彼らに呪いの言葉をぶつけたいわけではない。
つまり、この世は誰でも知っているように、どんなに努力しても駄目だし、
たえず偶然にもてあそばれるし、人の評価は理不尽であるし、そして最後は死ぬ
…こういう事も含めて人生だ、と言う当たり前のことをそのまま言いたいだけなのです。
返信する