君は、町のはずれの掘っ立て小屋に一人で住んでいる謎の老人に会いに行く。
噂によると、この老人はなにか特別な薬を使って、
一時的に人生をリセットした世界に、人を旅に送ることができ、その世界では願いがなんでも叶うのだという。
老人は、ほとんどの客が十分満足して旅から帰ってくるという。
だが君は決心がつかない。
迷いつつも、いったん帰るが、妻と息子のいる家に戻ると家庭生活や日々の雑事に追われて、老人のことを忘れてしまう。
しかし、何日か経って、今日こそ老人のところへ言って、リセットの旅に出かけようと思うのだが、
かならず何か用事ができたり、小さな悩みごとが発生し、訪問を延期するはめになる。
ある日は、仕事でトラブルが発生する。ある日はウンザリするような夫婦喧嘩で一日がすぎていく。
またある日は、明和で「もし人生のリセットボタンがあったら」というスレを立て、レスがつくかどうか一日気にかける。
それでも、君は頭の隅で、そのうち遅かれ早かれ老人のもとを訪れるだろうと考えている。
さらに時が経ち・・・・・・君は突然、老人の掘っ立て小屋で目を覚ます。
そばにいた老人が優しい声をかける。
「気分はどうだね。リセットの旅は満足したかい?」
君は、何がなんだかわからないまま、「え、ええ、もちろんです。」といい、帰り支度をはじめる。
家に帰る道すがら徐々に思い出す。
自分が、核戦争の後に廃墟になったネズミだらけのシェルターの中で、
一人淋しくジャガイモの配給を待って毎日の生活を送っていることを。
『夢売ります』より
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